母親とは離れて暮らしているが、とても不思議な体験があり久しぶりに肉声を聞いた。
深夜になぜか眠れず、ごろごろとしていたら突然部屋の中に覚えがある香りが漂い始めた。
コーヒーと、それに混じったタバコの香りだ。
前日からの雨で家中の窓は締め切っており、外から入ってくるとは考えづらい。
ふすま一つ隔てた隣の部屋では何の匂いもしないのに、六畳ほどの自室の中だけが香ばしいコーヒーとタバコの香りでいっぱいになっている。
隣家の人が何かしているかと思い、外へ出たが廊下には何の香りも漂っていない。
家族の中でコーヒーを飲み、タバコを吸うのは母親だけである。
その瞬間母親に何かがあったのではと思い、慌てて電話をしたのだがコールには出ない。
……翌朝には無事連絡がつき、母親には何も無かったことが解ったのだが、あのコーヒーの香りが何だったのかは今でも謎のままである。
炉辺談話
霊感は無いのだけど、虫の知らせに関しては何度か思うところがある。
これもそんな体験の一つだ。
この時匂ったタバコの香りはマイルドセブンにそっくりで、そこも母親を想起させた要素の一因だ。