実家のあるN県に、お寺をやっている親戚がいる。
小さい頃は季節の休みが来る度に遊びに行き、それこそ一月以上の逗留もざらだった。
子供が後先考えずに遊ぶとどうなるかといえば火を見るより明らかで、それはもうありとあらゆる粗相はしつくしたといっても過言じゃあない。
結果として最終的にはお灸を据えられてしまうのだが、その中でも自分が一番恐れていたお仕置きがあった。
それは、納骨堂に閉じこめられるというものである。
夏はそのまま、冬は毛布と一緒に本堂の地下にある納骨堂に放り込まれる訳なのだが、暑さや寒さよりも堂内に充満する暗闇と雰囲気が何よりも厳しい。
暗闇は暫くすると目が慣れてくるのだが、その空気だけは何時までも慣れることはない。
耳鳴りのするような静寂の中、寝ることもできずにひたすら耐えていると希に不思議なことが起きたのを憶えている。
「ミシッ」というか「ピシッ」というか、何かが弾けるような音がどこかから響いてくるのだ。
それは、ずらりと並んでいる骨壺の中から聞こえてきていた。
堂内の温度変化などで家鳴りのように音を発する、ということも考えられなくはない。
しかし、どこかが鳴り始めるとまるで呼応したかのように別の場所でも鳴り出すのである。
一度などは、あれよあれよと周りの骨壺がどんどん鳴り始め、まるで合唱会のように庫内に音が響きわたったことすらある。
今でもあの納骨堂の中では、夜な夜な仏様達が歌っているのかもしれない。
炉辺談話
某N県にあるお寺の話。
今では蛍光灯も備えた現代的な納骨堂だが、このころは入り口に蠟燭と燭台が置いてあるような環境だった。
思い出すと不思議な体験だ。怪談好きになった今だからこそ行ってみたいような、そうしてはいけないような……。