仕事の都合で毎週日曜日は出勤日となっていて、事務所の鍵開けを任されている。
事務所に入ったら空調とライトを点けて、編集室がある地下へと向かうのがいつものルーティーンだ。
地階への階段は螺旋状になっているのだが、踊り場を切り返したときに視界の端で何かが動くのが見えた。
一瞬して「ガチャリ」という音。
階段を下りてすぐ左手側にある、スタジオの扉が閉まった音だ。
その日解錠をしたのは自分なので、他の人が社内にいることは考えられない。
かなり怖かったのだが、それでも「空き巣が入ったのかもしれない」という思いが勝り、意を決してスタジオへのドアを開けた。
真っ暗なそこには、もちろん人がいるはずも無かった。
ちなみに、風や気圧ではないと言うことはキッパリと断言ができる。
なぜなら「ガチャリ」という音と共に、L字型のドアノブが上下に動くのが見えたのだから。
炉辺談話
この話、実はここに発表するまでが非常に難産なエピソードだった。
というのも、文章にすると位置関係が凄く説明し辛かったからだ。
もう少し描写を補うと、螺旋状の階段の踊り場を折り返すとちょうど“「”の字のような形になっており(|が下り階段。降りて左側の突き当たりにスタジオへのドア、右側の廊下が自分の仕事場である編集室へと続く)、自分は階上からドアが閉まるところを目撃した形である。
あまりにもハッキリと目の前で異常事態が起こったため、パニックのあまり携帯で110を入力してしまったのを覚えている(発信は踏みとどまった……)。