「あそこにはいるよ。マジで気をつけた方がいいよ……」
会社の忘年会の最中だったと思う。他部署の先輩であるFさんが急にこんな話をしてくれた。
うちの会社の事務所は各階にトイレが設置されているのだが、Fさんはその日たまたま地階のトイレに入ったのだという。
便座を上げたところ、便槽の端に一本の長い黒髪がへばりついているのを見つけたそうだ。
尾籠な話ではあるが、男は「小」をするときに何となく狙いを付けてみるようなことが多い。
Fさんもあまり考えずに、その髪の毛に照準を定めて用を足し始めた。
何度か髪の毛に対して「水流」が直撃したのだが、流れていく気配はない。どうやらかなり強固にくっついているようである。
結局全てを出し終えても、その髪の毛は流れ落ちることはなかった。
よくわからない敗北感を感じつつも、レバーを引いて水を流したところ――
水と共に真っ黒な髪の毛が幾筋も便槽内に流れてきた。
一瞬のことだったのでFさんが確かめる間も無く、ぞろぞろと流れてきた大量の髪の毛はそのまま水流と共に流されていったそうだ。
慌てて貯水タンクを開けて調べてみたが、もちろん何も異常はなかったという。
炉辺談話
この話を聞いた後に、思い出したことがある。
いつだったか、Fさんが慌てた様子でトイレの辺りで何かをしていたときがあったのだ。
上の階の人が地階のトイレを使っているのは珍しかったので、印象に残っていた。
その時は特に声をかけなかったのだが、実はこんな目にあっていたとは……。
地下のトイレを使う機会は僕の方が圧倒的に多いので、タイミングを一歩間違ったら自分がその現象に遭遇したかと思うと中々にゾッとする話である。