N君は家業として所謂「江戸の火消し」を営んでいる家系だ。
そのため、実家の居間には昨今珍しい厳かな神棚が設えてある。
4~5歳ごろの誕生日のことだ。
件の神棚がある居間でパーティーが催された。
電気が消され、ケーキ上の蝋燭に火が灯される。
N君が吹き消そうと顔を近づけたとき、横の壁面に懐中電灯の明かりのようなものがパッと点灯した。
誰がやっているのかと皆の方へ向き直るが、全員が驚いたようにその壁面を見つめている。
慌ててそちらを見返すと、自分と壁との間に野球ボール大の火の玉がポカンと浮いていた。
「なんだこれ?」
家族が口々に訝しがったが、不思議と誰も怖さは感じていないようだった。
火の玉はそんな喧噪は関係ないといわんばかりに、頭上にある神棚にフワリと近づくと、スポッとその中へ飛び込んで消えてしまった。
暫く全員が呆気にとられていると、不意にポッと火の玉が神棚から飛び出してきた。
おおー、と皆から喝采が上がる。
すると、まるでそれに気づいたように火の玉はまた神棚へと引っ込む。
その後数度同じやりとりが繰り返され、何度目かを境に火の玉は神棚から出て来ることはなかったそうだ。
炉辺談話
友人のN君の実体験だ。
彼が住んでいる場所は土地柄か神社仏閣がとても多く、こんな話もさもありなん、というような環境である。
都会のど真ん中でも、怪異は存在する。そんなことを再確認したエピソードとなった。