竜の目撃談 その2

友人のNさんが実家に帰った時のことらしい。

その日彼女は実家のソファでくつろぎながら携帯ゲームを楽しんでいたそうだ。

遊んでいたソフトはMという、東西問わない神々や妖怪・クリーチャーなどがキャラクターとして登場するコアなファンが多い名作ゲームである。

出現する敵キャラを次々と倒していると、何となくその風景を眺めていた彼女の母親が画面を指さして大声を上げた。

「N!! アタシこれを見たことある!! これってオバケなの?!」

母親が指さす所には、ヨーロッパ神話に登場する伝説の怪物「バジリスク」が映っていた。

詳しく事情を聞くと、彼女の母親が「それ」を目撃したのは何十年も前の子供時代とのことだった。

Nさんの母親の生家は岐阜と三重の県境にあり、当時は「木と水以外は本当に何もないへんぴなところ」だったという。

遊び場というと目の前にある山か川以外には無く、毎日授業が終わるとすぐにそのどちらかへと出かけていった。

いつものように仲間と川で遊んでいたある日のこと。

その日のNさんの母親はどうしたことか、皆よりもかなり先行して下流の淵へと泳ぎ着いてしまった。

暫くの間友人らを待ってみたが、一向に来る気配がない。

あまり身体を冷やすのもいけないと思い、とりあえず一度岸部へ上がることにしたのだという。

側にあったに大きめの岩に手をかけ、一気に身体を引き上げる。

Nさんの母親が岩の上に上がったとき、まだ「それ」はこちらに気づいていなかったらしい。

自分のいる岩から2~3メートル先、ちょうどまな板のように平たくなっている岩の上にそれが横たわっていた。

明らかにこちらより大きい体躯は黄色がかった緑色の皮膚に覆われ、灰色の斑点がだんだらに散らばっている。 背中にはギザギザと怪獣のようなトゲがあった。

しっかりとした四肢が身体の側面から生えており、鳥では断じてなかったという。

あまりの出来事に彼女が固まっていると、閉じていた瞼がクワッと開きピンポン球のように大きな眼球が現れた。

それから体感では一時間以上、一人と一匹は人気のない山奥で睨み合っていたのだという。

異様な雰囲気に飲まれかけ、悲鳴が喉まで出かかったその瞬間___

巨体がサッと動いたかと思うと

ドポンッ!!

という水音が辺りに響き、キラキラと光る水しぶきが岩の向こうで散った。

追いついてきた友人達にさっきのことを話してはみたが、誰一人として信じてはくれなかったそうだ。

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